I think so./I feel so.

漫画や映画など読んだもの・見たもの・聞いたもの・使ってみたものや普段の生活に関する感想文です。内容は一個人である私の思いつきに過ぎません。

コミックス『死人の声をきくがよい/ひよどり祥子』の感想※ネタバレ注意

かわいいのに暗い、怖いのにかわいい傑作

『死人の声をきくがよい/ひよどり祥子』は幽霊が見える高校生・岸田純が、岸田に取り憑く幼なじみの幽霊・早川涼子とともに様々な怪奇現象に巻き込まれていくさまを、バカバカしくポップに、なのに暗く湿った空気を醸し出す絵柄で描かれる恐怖漫画です。
作者のひよどり祥子いわく

主人公の男の子が幼なじみの幽霊やら
いろんな女の子に囲まれてキャッキャウフフな内容の作品を
ホラー漫画家が描いた………みたいな感じのものです

引用:『死人の声をきくがよい』Kindle版第1巻P.194

とのことで、ヒロインの早川さんはじめ確かにかわいい女の子が沢山出てきますが、描かれる死体の山も半端ない作品です。
この作品は「チャンピオンRED」に連載されていて、コミックスは9巻まで発売中(2017年8月11日時点)です。


不幸の引き寄せ体質・岸田

※以下ネタバレ注意
ありとあらゆる不幸を引き寄せる岸田。幽霊・生霊・殺人鬼からUMA・宇宙人・神様・国家転覆の陰謀まで、なんでも引き寄せる。人には見えないもの=霊が見える岸田だが、霊が何を伝えたいのかは全くわからず、したがって何ができるでもなく、無力無気力で常に心ここにあらずといった風情です。
そんな岸田は宇宙人の尖兵として送り込まれたロボットの分析では

スペクトルG線の数値が……
異様に高い
この線量では…
周囲にKゾーンが現れるんじゃ
……………この人間
保護指定の希少種か

引用:『死人の声をきくがよい』Kindle版第6巻P.147

とのことで、何らかの力を岸田が放出しているために不幸や怪奇といった禍(わざわい)をなす厄介事が、わざわざ岸田に近づいてくるようです。
岸田自体も禍を呼び寄せることには諦めがありますが、体はそれを受け入れるわけもなく、拒否反応として鼻血が出ます。鼻血は禍のスケールを図るバロメータ的役割を果たしており、禍が大きければ大きいほど大量に噴出します。

ものいわぬヒロイン・早川さん

第1話で出てきた時からすでに幽霊になっているヒロイン・早川さん。妄想にとりつかれた養護教諭に惨殺されています。殺された時の格好であるセーラー服を着た幽霊の早川さんは岸田や霊感の強い一部の人間(魔子や賀露川など)にしか見えないが、物理的な存在ではないため発話することができず、話を聞くことはできるが自分から音声を発してコミュニケーションを取ることができない。
そのため早川さんは身振り手振りで岸田にメッセージを送る。その様子がキュートで、この作品の魅力の一つとなっている。
幽霊のため無表情だが、着ているセーラー服は季節に合わせて夏服冬服に替わるのが妙に面白い。
早川さんは早川さんの意志で岸田に取り憑いていると岸田自身も考えていたが、魔子によればそうではない。

あの子は君に憑いているわけじゃない
君のほうが引き止めているのよ

引用:『死人の声をきくがよい』Kindle版第1巻P.187

スペクトルG線が作用しているのか岸田自身が(気づかぬまま)に早川さんを引き止めることを望んでいるのか、今はまだわかりませんが、おおきな謎です。

死人の声はきこえるか?

タイトル『死人の声をきくがよい』は、額面通り受け取れば死人の声がきこえない岸田はどうやって死人からのメッセージを受け取り問題解決できるのか、あるいはその声なき声にどこまで耳を傾けられるのか?というテーマとして見ることができる。
でもこの作品は「岸田がどう早川さんのメッセージを受け取って難局を乗り切るか」ということではないように私は感じる。岸田は「死人」側…禍や厄介事側に立っていて、オカルト研究会の会長・式野や欲にまみれた友人・小泉のように生きることへの執着を隠さない普通の人間とは一線を画した存在である。子供の頃から霊が見える岸田は厄介事を引き寄せるため疎まれがちであったろうし、幼なじみの早川さんと疎遠になったのもそんな理由からだと考える。岸田の声は生きた人間の誰にも届かない。そのせいで岸田はあきらめ顔の無気力少年となったのではないか。生きた人間にはその声が届かない、(岸田の声が聞こえたから、届いたからといってそれこそどうなるものでもなく禍は降り注ぐが)だからタイトルは『死人の声をきくがよい』なんじゃないかと私は思います。

恐怖漫画を読んだことのない人にもおすすめです!

恐怖漫画らしく暗く湿った感じがページから漂うし血は噴き出て死体は山盛りとグロさはありますが、キャラクターは全員かわいらしくてストーリー自体は笑えるという奇跡のようなバランスを持つ作品です。怖いだけとか気持ち悪いだけではないので、これまで恐怖漫画・ホラー漫画といったジャンルを避けてきた人にもぜひ読んでもらえたらなと思います。

この世界観にハマったら「うぐいす祥子」名義の他作品も読んでみよう!

作者のひよどり祥子は『死人の声をきくがよい』だけが「ひよどり」名義で、他の作品は「うぐいす祥子」名義になっています。
『死人の声をきくがよい』でも重要なキャラクターとして登場している魔子の幼少期と思われる「マコ」が描かれる『闇夜に遊ぶな子どもたち』はこれまで単行本化されていなかったお話を収録した完全版が最近リリースされています。

『死人の声をきくがよい』にはマコ=魔子のお兄ちゃんが未登場ですが、パン工場で深夜まで働くだの両足骨折だのといった気の毒な情報だけは魔子の口から語られています。