荒波に揉まれて右往左往、性に荒ぶれ乙女ども!
今回紹介するのは別冊少年マガジンにて連載中の『荒ぶる季節の乙女どもよ。/原作・岡田麿里、漫画:絵本奈央』。単行本は2巻まで出ています。文芸部に所属する5人の少女が、心身の成長に従い、誰しもが否応なく向き合わされる問題「性」について、時に困惑し、時に荒ぶりながらも、あくまで生真面目に向き合う姿が可愛く面白い作品です。文芸部員である5人の少女の人となりを紹介しながら、作品の魅力についてお伝えしたい。
『荒ぶる季節の乙女どもよ。/原作・岡田麿里、漫画:絵本奈央』のあらすじ※ネタバレ注意
高校1年生の和紗、もーちん、菅原氏、2年の本郷先輩、3年の曾根崎先輩の5人は文芸部に所属している。活動のメインはみんなで一つの作品を読んで、読書会という名のもとに感想を語り合うというもの。彼女らの読み込む本は純文学が多く、思春期真っ盛りな年頃ではどうしても性描写に意識が吸い寄せられてしまう。隣の家に住む幼馴染・泉との関係性に悩む和紗は最近、自分が性に振り回されているような気がしてならない。そんな中、部活動中に「死ぬ前にしたいこと」という話題がのぼる。めいめいがしたいことを考える中、超絶美少女・菅原氏の口からこぼれ落ちた意外な一言が、彼女らを「荒ぶる季節」に放り込んだ。
菅原氏「セックスです」の破壊力と「もうすぐ死にそうなので」の真意
菅原氏以外の4人が驚愕した「セックスです」の一言が、これまでは有形無形の影響力を持ちながらどこか自分とは関係ない世界の話のようであった「性」を、一気にぐぐっと文芸部に引き寄せます。和紗は発言の真意を菅原氏に尋ねますが、「地球誕生からの時間概念の話」ではぐらかされてしまいます。
菅原氏の「もうすぐ死にそうなので」の真意はもうしばらく後に明かされます。
自分の「今ある美貌」に自覚的な菅原氏は、その美貌の源泉が「今のこの年齢にだけある表層的な少女性」にあることを理解しており、その少女性が間もなく自分から失われることも知っているがゆえに「もうすぐ死ぬ」と発言しているのです。どこか「自分の価値はそこにしかない」とでも思っているような、あるいはそれを教えた「劇団の演出家」に思い込まされているような、そんな儚さを菅原氏は醸し出しています。
「あんな感じ」の曾根崎先輩、超荒ぶる!
曾根崎先輩には、菅原氏発言が、同級生のエロ会話ばかりに耳が敏感になる呪いのように張り付きます。同級生との間に軋轢を生んだり、眼鏡を取った素顔をとあるクラスメイトの男子・天城に「可愛い」と褒められて逃げ出したり、「セックス」という言葉を使わないでその行為を表す暗号を決めようとしたり、堅物なだけに振り回され方が大きくて、とてもコミカルです。挙句、眼鏡のおさげからモデルのように変貌を遂げ、校内に衝撃を走らせるも中身の生真面目さまでは変えられなかったり。それでも天城の告白を受けてますます変わっていきそうな感じです。
「中身が中年童貞おじさん」の本郷先輩、想定の範囲を越えられない
小説家を目指して持ち込みを行うなど、積極的に行動を展開する本郷先輩は「進んでる」と部内でも思われているようですが、本人は性経験がなく、そういった知識をツーショットチャットなどで仕入れているために、書いている小説の性的表現が中年童貞おじさんのように稚拙になることが悩みです。
大人の都合(出版社の、女子高校生作家によるエグい性表現を盛り込んだ純文学を売らんとして小説家になりたい女子高校生たちを天秤にかけるように扱うさま)に振り回されることから抜け出すため、自分に必要な性の実体験を得ようとして、意を決してツーショットチャットの相手「ミロ」に抱かれに行ったら、そいつは学校の国語教師・山岸で、それ以降、本郷先輩は校内で山岸先生にことあるごとに突っかかります。教師がエロチャットで高校生に会おうとすることを問い詰めると「女子高校生にしては性表現が想定内の中年男性」と言われ激昂。
彼女は、自分を大きく見せたいというか、自尊心が実は非常に大きい=プライドが高いので、自分のことを値踏みされると、とても傷つくのです。同時に自分には思っているほどの価値が無いのかもしれないというジレンマもあります。実際に天秤にかけられて自分は切り捨てられたことがあるからです。
山岸先生から想定内と言われて傷つき、彼に対し瞬間的に取った行動である「膝にまたがり胸ぐら掴んで詰め寄る」で何かに目覚めます。本郷先輩は一体何に目覚めたんでしょう?
和紗の力になりたいもーちん、友情に満たされる
もーちんは泉との関係性に悩む和紗の力になりたいけれども、男の人を好きになったこともない自分では和紗の力になれないと落ち込み、菅原氏にそのことを打ち明ける。そこで菅原氏に励まされ、もっともっと菅原氏と仲良くなりたいという願望を持っていたことを話すと、「今まで出会った女子の中で、百々子ちゃん(もーちん)と和紗が一番仲がいいよ」と言われ、満ち足りた表情を浮かべるもーちん。
彼女も菅原氏発言以降、性の諸問題を意識していますが、恋に目覚めるのはもう少し先のようです。
性にまつわる問題に振り回され続ける和紗
泉が独りでしているところを見てしまった和紗は、そのせいで性をグロテスクな恐ろしいものと感じてしまう。性=直接的な性行為というイメージに凝り固まり、あんなものが自分に入るわけがないと恐怖に怯える和紗は、しかしますます、性の問題というよりは性行為の問題が頭から離れなくなる。泉は別の同級生から告白されるが断りきれずに曖昧な回答をする。その一部始終を見ていた和紗は「あれががしたいから断りきらないのか」と泉をなじる。そのことを菅原氏に諭され、和紗は自分が泉のことを好いていることにようやく気づく。
ここで和紗に悩みには更に恋愛の問題まで加わってしまい、混乱はいつまでたっても終わらない。恋愛感情と性欲が一緒なのか別なのか、和紗にはわからない。性癖や性欲といったものも自分に都合よく捉えようとしたりするうちに、今度は泉から「和紗とこういうことをしたいとは全然これっぽっちも考えたことがない」とはっきり言われてショックを受ける。
和紗も泉もお互いのことを思うあまりに言動がとっちらかる傾向があり、しかも性に対して保守的であるという意味で、似た者同士であるといえます。この二人の関係は今後どうなるのでしょうか。
荒ぶる季節は女子にだけあるのではなくて、当然男子にもある
性に振り回されるのは女子だけではなく、当然ながら男子も同じ。泉も、天城もきっとそう。荒ぶる季節の乙女に触れて、荒ぶる季節を通り過ぎたであろう山岸先生や劇団の演出家もその荒ぶる季節に飲み込まれて行くのではないかと思います。
性の問題に振り回される女子と、その女子に更に振り回される男子の右往左往が、登場人物がみんな真面目なだけになんともおかしくて笑える、楽しい作品で、これからの展開もとても楽しみです。