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I think so./I feel so.

漫画や映画など読んだもの・見たもの・聞いたもの・使ってみたものや普段の生活に関する感想文です。内容は一個人である私の思いつきに過ぎません。

『惡の華/押見修造』中学生編の仲村さんについて

感想文 悪の華 押見修造 漫画 別冊マガジン 惡の華

中学生編の仲村佐和に関する考察

夏祭り以降の仲村さんに関する諸々が次回第53話で分かるかもしれないので、その前に中学生編における仲村さんという人物に関する私の考えをまとめようと思います。よろしくお付き合いください。

惡の華(1) (少年マガジンKC)

惡の華(1) (少年マガジンKC)


前提:仲村佐和という人物像

仲村さんという人物を読み解くのに最も重要なポイントが、先日発売された『TVアニメ「惡の華」メイキング・オブ・クソムシ』におけるアニメ版監督・長濵博史と作者・押見修造の対談ページに記載されています。

人とは絶対にわかり会えない*1、自我の牢獄からは生きている限り永遠に出られない、というのが仲村の絶望であり、僕の絶望でもありますが、

引用:主婦と生活社『TVアニメ「惡の華」メイキング・オブ・クソムシ』P.159

TVアニメ「惡の華」メイキング・オブ・クソムシ

TVアニメ「惡の華」メイキング・オブ・クソムシ

これを前提にすると、中学生編の仲村さんがかなりわかりやすくなります。


「人とはわかりあえない」という絶望の原点

作者が長濵監督へのメールで明かした仲村さんのこの絶望は、どこから始まっているのでしょうか。物語開始時点ですでに様子のおかしいクラスメイトとして敬遠されている様子が描かれていることから*2、相当前からこの絶望を抱えているようです。
中学生編で仲村さんは片親で父親と祖母と暮らしています。別冊マガジン連載中の最新第52話では、事件後母親に引き取られていることが明らかになります。本人も再登場しますが、毒気がなくなっている(ように見える)ことを考えると、母親と引き離されていることなどの家族にまつわることが仲村さんの絶望の原点として有力ですが、この辺りは作中で未だ描かれていません。
何にせよ、わかりあえないという絶望が形成されるのは、「わかって欲しかったのにわかってもらえなかった」または「わかりたかったのにわかってやれなかった」のどちらかあるいは両方の経験に基づくのは間違いありません。


仲村視点の中学生編

仲村さん視点での中学生編は、仲村さんが元々抱えた絶望が萎みかかってまた膨らんで、また萎みかかって膨らみながら仲村さんを覆い尽くす物語です。わかりあえないという絶望をより強固に仲村さんに刷り込む出来事が続きます。
どのような経過を辿って絶望が仲村さんを覆い尽くしたのか、春日くんとの再契約時に登場する仲村ノート*3と、再契約後の行動を追いながら考えたいと思います。


クソムシの町で春日を発見

この町にはクソムシしかいないんだ。
私には耐えられない。

引用:コミックス第4巻P.85

いた!私以外にも
変態はいた!
春日高男←変態
(略)
楽しみだなあ。
契約しよう!

引用:コミックス第4巻P.86

物語開始以前から続く周囲への不満の中身は何なのか。これは仲村さん自身の言葉で語られています。

結局春日くんも他の奴らと同じなんだ
ゲロみたいな話でゲロみたいに笑って
クソみたく固まって群れて
(略)
死んだほうがましなカスども!
まんじゅうどもと!
キレイごとばっか吐きやがってどいつもこいつも腹の中は!
せっくすせっくす!
結局クソせっくすがしたいだけ!!!
つまんない
つまんない
つまんない

引用:コミックス第2巻P.171〜173

やらしい気持ちがあるなら隠すなよ、出せよ、本音を隠して生きるなんて真っ平御免という極端な潔癖。
このシーンでは腹の中の本音と上っ面の乖離を取り繕う、周りの連中に対する憤りと違和感が春日くんにぶつけられます。
仲村さんは佐伯さんへの気持ちを体操着を盗むという形で自分の前で曝け出した(春日くんは見られてたなんて思ってもいませんでしたが)変態・春日くんを発見し、大いに喜びました。前後しますが、周りのまんじゅうどもとは明確に違う特別な自分に発見されたのだから自信を持て、と春日くんを鼓舞したりもします。
春日くんという同志を発見し、仲村さんの絶望はここで一旦萎みかかります。


春日の裏切り

仲村さんは春日くんと教室をクソムシの海にし、ノートにこう書き記します。

きもちよかった

引用:コミックス第4巻P.87

理解者のいない人生で、遂にそれを得たと思えた仲村さんでしたが、春日くんに裏切られます。それが山の向こう側事件です。
自分についてくると信じていた春日くんがついてこなかったことのショックは大きく、ノートに次のように書き記し、仲村さんは春日くんに対しても心を閉ざします。

向こう側へ行けなかった。
行けなかった。

引用:コミックス第4巻P.88

一旦萎みかけた絶望は強化され、仲村さんを捉えます。


再契約と楽しみな夏休み

ノートを見た春日くんは、山の事件で自分が仲村さんについていかなかったことで受けた仲村さんのショックを思い知りました。そして思い知り過ぎて勘違いをします。生きづらい仲村さんを自分が救うのだ、と。
春日くんは必死に再契約を訴え、自分の忠誠、と言ってもいい程の覚悟を示します。それが佐伯さん以外の女子全員のパンツを盗むこと、秘密基地を作ることでした。
仲村さんは再契約を受け入れます。そして二人でもっとでかいことを仕掛けようとします。

こんなに夏休みが楽しみだったこと
今まで無かったよ

引用:コミックス第5巻P.21

戻ってきた同志・春日くんとの日々をこんな言葉を吐く程に、絶望は再び萎みかかっていました。


佐伯という怪物

単純な恋愛関係という言葉では括れない関係性を築く仲村さんと春日くんの前に、仲村さんが小馬鹿にしてきた「セックス」を武器に佐伯さんが立ちはだかります。
秘密基地を潰され、セックスが自分達の世界を侵食してきたことに仲村さんは大きなショックを受けます。

私は…
死にたくない

引用:コミックス第5巻P.174

死を意識せざるを得ない程の衝撃。同志・春日くんまたもまんじゅう代表・佐伯さんに絡め取られ、道の先は、世界は、どこへ行っても死んでいる。
絶望は仲村さんを極限まで追い込みます。


自分もクソムシだった

春日くんを裸にして皮膚をひん剥いても、ずぶずぶのど変態は出てこない。セックスが自分の世界を侵食してきてショックを受けるようでは、自分の中身も特別な何者かではない。満月が照らす廃屋で、結局自分達はクソムシの群れの中で、他のとは違う方向を見ていただけのクソムシであることに気付き、絶望に覆い尽くされた仲村さんは自殺を決意しました。
更に自殺に酔いしれる春日くんを見て、こいつもわかってねえ、誰からも自分は理解されないと仲村さんは感じ、最終的に櫓から春日くんを突き落とします。
再び春日くんに裏切られた、そう仲村さんは思い、春日くんを拒絶し、突き落とした。私はそう考えます。


振り回したのは春日

中学生編は春日くんがエキセントリックな仲村さんに振り回される話のように見えますが、実はむしろ逆で、春日くんが仲村さんを含めた周囲全てを振り回す話です。
仲村さんが絶望に呑み込まれる過程に春日くんはことごとく噛んでいて、最後は希望を見たはずの春日くんとの関係性にも、もともと持っていた絶望がやはり絶望のままであることを思い知るのです。


仲村が隠しているもの

作中の随所に見られる「わかってもらえないのは自分が特別だからで、わかってくれないお前らはクソムシ」という他人を見下す言動は、仲村さんが行き場のない気持ちを隠しごまかすために取る自衛手段だと私は思います。仲村さん自身は何かを隠して生きていて、その反動が自身を先鋭化させるのでしょうか。その隠している行き場のない気持ちとは何なのか。
それは自身が持つ絶望と裏返しの、他者にわかってもらいたいし他者をわかりたいという気持ちだと私は考えます。
腹の中を隠して生きて周りと適当に合わせるなんてできない、でも本当のところをわかって欲しいしわかりたい。だから正体が剥き出しになった瞬間を仲村さんは評価する。本当は誰よりもわかりたくて、わかって欲しいのが仲村佐和なのです。


仲村の悲しみ

仲村さんにとって致命的なのは、相互理解したいのに、その方法を知らないことです。知らないので極端な行動に走ります。
片親だったり貧乏そうだったり*4なども関連しているようですが、他人との交わりを徹底的に拒絶するという行動を取るのは、交わる方法を知らないことが原因だと思います。
仲村さんが抱える絶望は、普遍的なものだと私は思います。基本的に人は完全にはわかりあえないと私も思います。でも、ある程度わかったような気・わかってもらえたような気がする時はあります。繰り返し遊んだり楽しい時間を一緒に過ごした相手のことは、多少なりともわかった・わかってもらえたと思えます。
仲村さんも春日くんと突飛な行動を共にすることで高揚した気分を味わっていますが、そんな極端な行動が長続きするはずもなく、春日くんも方向性が変わり、仲村さんとは違うものを見始めます。
理解を深める手段を仲村さんは知らないので、極端な方法に走ってしまう。しかも程よいところで妥協できない潔癖さを仲村さん持っていたために、最後は後戻りのできない焼身自殺を図ります。


まとめ

酔った仲村さんが春日くんにマウントパンチを打ち込むシーンがあります*5。子供同士がじゃれあうのと変わり無いシーンですが、子供同士はじゃれあって遊ぶことが仲良くなっていき、お互いをより深く認識し、理解していく一つの手段です。このシーンは酔っ払って子供に退行した仲村さんが、子供の時にできなかったことをしているのだと思います(春日くん視点では大変なエロトピックですが…)。
このようなコミュニケーションが取れる相手が、春日くんが現れる14歳まで、仲村さんにはいなかった。そしてようやく発見した春日くんともすれ違いが発生してしまい、潔癖過ぎる仲村さんはそれが許容できない。結果、絶望は巨大な黒雲となり仲村さんに取り憑き、覆い尽くしたのだと思います。

*1:本文ママ

*2:コミックス第1巻P.13

*3:コミックス第4巻収録第20話

*4:コミックス第4巻収録第19・20話の描写から伺える

*5:コミックス第5巻P.66〜67