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現実(ニッポン)vs.虚構(ゴジラ)!『シン・ゴジラ/庵野秀明』の感想

現実vs.虚構!日本の統治機構は巨大不明生物・ゴジラとどう戦ったのか?

7月30日に『シン・ゴジラ庵野秀明』をIMAXで観てきました。
これはいい!よすぎる!やばい、超怖かった!大満足!俺も頑張る!そんな映画でした。
途中お腹が痛くなるほどいろんな感情揺さぶられます。
時間のある方はもちろん、時間のない方はぜひ時間をやりくりして観に行って欲しいです。私も近いうちにもう一回観に行くつもりです。
絶望的な脅威である巨大不明生物と日本の統治機構がどう戦うか?信念とあふれる野心を持つ大人たちのかっこよさにしびれてください。
以下ネタバレ注意な感想です。

『シン・ゴジラ』予告2

日本の統治機構は未知の巨大生物とどう戦うかというシミュレーション

未知の巨大生物が現れた時、日本の統治機構はどのように動き、対処するのか。『シン・ゴジラ』の前半は非常にリアリティのあるドキュメンタリータッチで描かれます。
現場の様子など誰も見ていないのに専門家でもない大臣がああだこうだと言いつつ続報が入るたびに会議の形態が変わるさまや、まるで役に立たない有識者会議、総理大臣が記者会見で言っていることよりも現実が先行するシーンなどは笑えるのですが、起きていることには確かに振り回されながらも様々な手順を経て着々と体制を整える政府高官・官僚や自衛隊の動きなどは、丹念に細かく取材されているようで説得力があります。
また、この想定外の事象(巨大不明生物=ゴジラの出現)を政府内でどう捉えるのか、日米安保の対象となるのかといった議論も去年熱かった集団安全保障に関する議論と重なります。結果として日本政府はゴジラを有害鳥獣駆除の対象と規定しますが、すると霞が関には打ち物を鳴らして「ゴジラを守れ!」とシュプレヒコールする集団が現れます。一般人はこの先誰もどうなるのか知り得ないためこのような集団が現れるのも仕方ないところですが、相当やかましいはずなのに「うるさい」とも言わずに黙々と仕事をする官僚と合わせ、このあたりもリアルだなと思います。


現実の災害とリンクする虚構のゴジラ

劇中、さまざまな過去の災害を想起させるシーンが多いのが『シン・ゴジラ』の特徴だと思います。現実に起きた災害を思い出してはお腹が痛くなりました。
ゴジラ第二形態(こいつは予告などの事前映像が出ていないので、その姿を初めてみた時はびっくりすると思う)の破壊の様子、低く地面を這って遡上する姿は東日本大震災津波そのもの。
ゴジラが一旦は海に戻った後、矢口たち政府高官は大田区の現場を視察しますが、東日本大震災やこの間の熊本地震と同じ瓦礫の山。
第四形態のゴジラが初めて熱線を吐き出すシーン。かつてゴジラ映画でよく描かれたあの青白い熱線を吐き出す前、ゴジラは嘔吐のように熱の塊をぶちまけます。それは御嶽山の噴火で発生した噴煙を登山者が携帯で撮影した映像や、雲仙普賢岳火砕流とまるで同じ。
過去の災害をトレースする絵作りで鑑賞者の感情を揺さぶることで物語に強制的に没入させ、映画中盤は絶望的な気分を味わうことになります。
物語は都心での熱線放出による大破壊以降、ドキュメンタリーから胸熱のエンターテイメントに色を変えていきます。


がんばろう日本、たちあがれ日本!最後の希望だ「ヤシオリ作戦」!

終盤は理想的な日本が描かれます。登場する人のほとんどが日本を心から想い、日本のために力を尽くすのです。ゴジラの正体を解析するために世界の研究機関がスーパーコンピューターを開放し、ゴジラを凍結させる薬剤を作るために全国の企業がプラントをフル稼働させる。政治家は野心を捨て、各国に頭を下げまくり、日本の未来に身を捧げる。
国連は東京で核爆弾を投下すると通告。それが実行される前にゴジラを止めるためのヤシオリ作戦を巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)が立案します。その実行方法は東日本大震災に伴う原発事故で使用済み燃料を冷却するプールの水は干上がりそうになった時に行われたコンクリートポンプ車による注水活動と同じ。命がけでゴジラに近づきコンクリートポンプ車で口の中に薬剤を注入するというもの。
できることを工夫をこらして、なおかつ犠牲を払い、ひとつの目的に集中する人々の姿を描くエンディングまでの過程では、非常に大きなカタルシスが得られます。


やったぜ里見総理大臣臨時代理!あんた最高だよ!

もちろん矢口・赤坂・泉らの政治家(政府高官)や巨災対のメンバーもかっこいい。特に矢口のヤシオリ作戦実行時の訓示はグッとくるものがある。でも里見総理大臣臨時代理が最後全部持ってったと思うんですよ。ヤシオリ作戦実行のハンコ押してから、復興までの筋道全部つけてたという。たまたま生き残ったために無理やり総理大臣代理を押し付けられ、作中の登場人物も鑑賞者も事後の腹切要員としか思っていなかったところに、実はそうじゃない、若手政治家と同じように日本を憂い、若手を信じ、自分は貧乏くじを引いて若手がやりたいことをやるための環境づくりに奔走した、立派で老練な政治家だったことが明かされる。これはしびれた。物語世界では支持率急上昇に違いないw


従来の怪獣映画的爽快感はないが、それとは違うカタルシスが得られる映画

繰り返しですが本当に満足しました。早くもう一回見に行きたい。
破壊が怪獣映画的爽快感がなく「もうちょっとやめてください」という嫌な破壊だし気持ち悪いかもしれないし災害をストレートに思い起こさせるシーンもありますが、それを耐えられるのであれば是非観てほしいと思います。破壊の恐怖を乗り越えた最後にはハッピーな気持ちとともに「俺もがんばろう!」みたいな気持ちになります。
私はIMAXで観ましたが、観るときはなるべく前の席で観ることをおすすめします。私が観た時は最前列しか空席がなくちょっと失敗かもなんて気もしましたが、観終えてからは「最前列で良かった」と心の底から思います。圧倒的迫力と没入感でした。


荘厳な新曲と過去の名曲

また劇伴(劇中音楽)が素晴らしい。過去のゴジラ映画における伊福部昭ゴジラ」「怪獣大戦争」などの名曲で怖くなったりテンション上がったり、「エヴァンゲリオンヤシマ作戦のBGMでグッときて、熱線を吐き出す時の荘厳な新曲にしょんべんちびりそうなくらい震え上がります。音楽が計算されて使われている感じが好感持てます。

シン・ゴジラ音楽集

シン・ゴジラ音楽集


野村萬斎ゴジラvs.ピエール瀧wwww

今回のゴジラはフルCG。動きのモチーフは狂言師野村萬斎ということが公開日である7月29日に公表されました。知らなかったら全く気が付かなかったと思いますが、第四形態のゴジラを下からカメラが見上げるシーンでの動きが確かに狂言のすり足で動く感じに見えました。
そのゴジラを武蔵小杉で食い止めるべく奮闘するのが自衛隊の戦闘団長・西郷、演じるのはピエール瀧!!富士山富士山とがなるしか能のない男、他人の靴を履いて犬のうんこ踏みながら笑顔で子供にマヨネーズぶっかけて頭からバリバリ食うのがピエール瀧のパブリックイメージだったはずだが、いつの間にかNHKドラマで主演張ったり国民的映画といえるこのゴジラで重要な役どころを務めたり…今のこの世は一体どんな世界線なんだとつくづく思う。


ゴジラと私

もともとは怪獣映画好きです。子供の頃はちょうどゴジラ映画が休みの時期でしたが、時々TVで放送されるのを見てその怪獣プロレスに大喜びしてました。「アンギラスよえー」とか。正月映画だった1984年の『ゴジラ』は親父と劇場で、1954年の『ゴジラ』は映画を見るのが生きがいだった高校生の時に『ラドン』と二本立てで観ました。オキシジェンデストロイヤー
大人になるにつれ興味が薄くなり、7月の始めころセブンイレブンエヴァンゲリオンゴジラのコラボキャンペーンをやってるのを見て「なぜ今ゴジラ?」「なんでエヴァとコラボなの?」と疑問に思っていたくらい近年のゴジラ事情には疎いです。庵野秀明が新作撮ったのをそこで知りましたが、「ああそう。シンエヴァの前フリかなんか?」程度の熱の低さでした。
でも7月29日の公開以降、自分のタイムラインがなにこれ?というくらい『シン・ゴジラ』で沸き立ったのを見て気になり始めました。今は沸き立つのも当然だと思います。傑作です。