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ビッグガンガン2013年vol.10『ハイスコアガール/押切蓮介』第31話の感想

大野視点で再構築する第1話

ゲーセンを堪能し、縁日を巡り、もう会えないかもしれない予感の中で別れたハルオと大野。どうなる?と思ってたら、こう来たか!


ハイスコアガール押切蓮介』第31話あらすじ

※ネタバレ注意
時代は1991年まで遡る。お金持ちのお嬢様・大野姉妹は家庭教師・業田萌美による厳しい躾を受けている。業田は奔放でワガママで手が付けられない姉・真の教育を諦め、従順な妹・晶に情熱の全てを注いでいる。そのために晶は息の詰まる毎日を過ごしていた。学校から帰れば様々なお稽古事をやらされ、ベッドに倒れこむようにして眠る日々。クラスメイト達の世界と晶の世界は完全に断絶しており、交わることがない。
家と学校の往復を送り迎えしてくれるじいやの車の中から見える風景、とりわけゲームセンターは晶の興味をそそる。学校→稽古→寝る、この繰り返しに耐えられなくなった晶は家出する。
街を彷徨う中で晶はゲームセンターを見つけ、入る。様々な筐体が並ぶ猥雑な店内で、ゲーマーらしく殴り合わない喧嘩をする客には目もくれず、ゲームの世界に魅了される晶。とりわけ、当時稼働し始めたばかりストリートファイターⅡが晶の興味をひいた。誰にも選んでもらえないザンギエフに何かを感じる晶は、初プレイでザンギエフのエンディングまで到達する。ファイナルファイトのハガーにもザンギエフに似た何かを感じ、ハガーハメを、これまた初プレイで発見する。
じいやによって保護される晶。じいやは晶が満足した様子を感じる。その数週間後、ゲームセンター・マルミヤでストⅡ29連勝を達成する晶。30連勝を阻止すべく、筐体の向こう側の対戦相手は禁断の「待ちガイル」を恥ずかし気もなく繰り出した。
美しくない戦法を使う、その対戦相手はハルオだった。


ゲームセンターは断絶された世界との接点

大野は周りからの期待が高いお嬢様であるゆえ、下々の庶民(クラスメイト)との交わりが遮断され、世間・世界との断絶が起きています。周りは可愛いお嬢様という外面でしか大野を捉えていません。大野と付き合うと自分たちのステータスが上がると考えている層と、過剰にお嬢様たる大野を慮る層に囲まれています。加えて本人は大変な無口。周囲とはそもそも交わる時間もないのですが、耐え兼ねて家出した先で大野は世界との接点をようやく見つけ出します。それがゲームセンターであり、アーケードゲームやそのキャラクター達でした。
世界との接点を見つけた大野の喜びは相当大きかったと思います。じいやに発見された時に見せた満足気な表情は単にストレスを発散解消させたから出たものではなく、世界との関わりをようやく見つけ出した喜びからくるものだと思います。ゲームを接点に、ゲームを通して誰かと対戦することでコミュニケーションを図る。誰が作ったゲームをプレイすることで、誰かの作った世界に浸ることで自分という人間がリアルな世界で息ができる、自分の居場所があることを知る。私は、この最初の家出は大野の世界が大きく広がることになる、ハイスコアガールという物語の中でも大変重要な出来事なんだろうと読んでいて思いました。


貪欲に自分の居場所を求めるその裏で

大野が喜びを感じながら貪欲に自分の居場所を求めるその裏では、自他ともに認めるボンクラたる自分が唯一輝ける居場所を金持ちで可愛くてモテモテの女子に侵食されていると感じている、ゲームの上手さだけが自分の存在理由であるとを信じる小僧がいます。ハルオです。ハルオが覚えるその危機感は第1話で描かれています。


似たもの同士

ハルオにとっては、何も持たざる生粋の底辺下衆少年が唯一輝ける場所に、全てを手に入れているような美少女が居場所を奪いに来たようにしか見えません。しかしこれはハルオの誤解で、何もかも持っているように見える大野は、実は逆に何も持っていない、居場所すらなかったのです。お互いが分かり合う過程の中でこの誤解は解けていきますが、二人は何も持っていないなかでその居場所をようやくゲーセンに見つけた似たもの同士です。


大野視点の第1話を描く理由

前話、土手で別れた二人のその先を描くのに、今回の大野視点の第1話を描かなくてはならなかったとすると、先には一体どんな展開があるのでしょうか。私は、ここで今一度、ハルオと大野がゲーセンでしか息ができない子供であったことを描き直したことで、より盛り上がる再会があることを期待しています。
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