I think so./I feel so.

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別冊マガジン2013年10月号『惡の華/押見修造』第49話の感想

聞きたい?

春日くんのおじいさんのお通夜に現れた木下さん。3年前、佐伯さんを守るために知っていることのすべてを町中にぶちまけた木下さんと春日くんの出会いで物語はどう動くのでしょうか。


別冊マガジン2013年10月号『惡の華押見修造』第49話のあらすじ

※ネタバレ注意
お通夜に母親と現れた木下さんに、あの夏の夜、自宅玄関でなじられたことを思い出し、力なく「ひさしぶり」と返事する春日くん。焼香を終えて帰ろうとする木下さんを追い、声を掛ける。木下さんに向かい、春日くんは

…ごめん
あのとき…

と言う。木下さんはそれに対し聞きたいことがあるからと、時間を要求する。
春日くんは両親にファミレスで待ち合わせをしたので通りかかったら車からおろして欲しいと伝え、お母さんは反対するものの、お父さんは高男は大丈夫だからとそれを許可した。
木下さんと向かい合わせに座る春日くん。なぜ今日お通夜に?と春日くんが聞く。木下さんは近所だし、もし春日がくるならどんなツラしてるのか見てやろうと思ったと答える。そして、

…あと…
奈々子のこと…

佐伯さんは木下さんに何も告げずに引越したのだと言う。

…捜そうと思えば捜せたかもしれないけど
でもなんか…
なんか…
…あれから
奈々子に会った?

年末に偶然佐伯さんに会ったこと、「ふつうに幸せ」と言っていたことを伝える。木下さんは顔を覆い泣き出す。あたしは置いてけぼりだ、奈々子を引きとめられず、あんた達を追い出した、自分はどうすればよかったの?と。

…あたしはずっと…置いてけぼりだ
この町に閉じ込められて…ずっと…
嫌だ…

突っ伏して泣く木下さんの手に、そっと自分の手を重ねる春日くん。木下さんは春日くんに、仲村とはあれからどうなった?と尋ねる。春日くんはあれから一度も会ってない、僕も捜すことも追いかけることもしなかった、生きているのか死んでいるのかもわからないと答えると、木下さんは会いたいと思わないのかと聞く。常磐さんを思いながら春日くんは

……わからない…
でも…いつかまた会えたらいいなとは思う

すると木下さんが言った。

…じゃあ
聞きたい?
仲村が今いるところ
聞きたい?


春日くんと木下さんの共通点

このふたり、実はとてもよく似ていたのです。ふたりとも手に入らない他者を求めて突き放されたのです。春日くんは櫓の上から仲村さんに。木下さんは何も言わずに去った佐伯さんに。そして目の前からいなくなった人を捜そうとしなかったことも。


木下さんの3年間

木下さんもまた、幽霊の3年を過ごしたのでしょう。佐伯さんの行動を止めることができず、春日仲村コンビの悪事を町中に言いふらして追い出した。でもそのことが木下さんの心の枷になっていたのです。その枷は春日くんにもたらされた佐伯さんの言葉「ふつうに幸せ」によって取り払われ、木下さんは込み上げてくる感情を抑えきれず、嗚咽する。みんないなくなり、自分だけが町に取り残された。どうすればよかったのか。自分の3年は何だったのか。


解放される木下さんの魂

この嗚咽、後悔の嗚咽ではないと思います。私は3年前の出来事に囚われてしまった木下さんの、魂の解放だと思いました。春日くんが幽霊の世界から抜けたように、木下さんも「ふつうに幸せ」によって解放されたのです。


仲村さんの行方

木下さんは「あれから仲村とどうなった?」「あんた達を追い出した」「自分だけ置いてけぼり」と言ったのに、仲村さんの今いるところを知っている様子です。仲村さんは町にいなさそうなのに、追い出して、町に置いてけぼりの木下さんは仲村さんの居場所を知ってる風。どういうことでしょうか…


「ふつうに幸せ」の正体

木下さんの魂を救ったこの一言ですが、佐伯さんが「ふつうに幸せ」ではないことが、あのコマの描かれようで伺えます。真っ暗な外が見える窓に反射した店内の、木下さんと春日くんが描かれるこのコマの意味、それは「幸せの反対」だと私は思います。佐伯さんは口ではそう言ったけれど、幸せではなさそうだと春日くんは感じ取った上で木下さんに言ったのだと思いますし、暗い外が見える窓への反射で、正反対のニュアンス、幸せではないことが表現されていると思いました。
意味合いが違って木下さんには伝わりますが、それで木下さんが解放されるなら、それはそれでよかったのでしょう。


余裕?の春日くんもこれまでか

先月号から春日くんは達観しているというか、ギリギリに見えてまだ何か余裕が漂ってる気がするのですが、仲村さんの居場所を告げられたとき、彼は余裕でいられるのでしょうか。山の事件のときのように、また仲村さんのところに走って行ったりしないのでしょうか。常磐さんに言った「裏切らない」はやはりフリになってしまうのでしょうか。来月号も見逃せません…


すいませんでした、てへぺろ

木下さん、親戚じゃなかったですね。
ただのご近所さんでした。。。