I think so./I feel so.

漫画や映画など読んだもの・見たもの・聞いたもの・使ってみたものや普段の生活に関する感想文です。内容は一個人である私の思いつきに過ぎません。

『惡の華/押見修造』仲村さんはなぜ春日くんを突き飛ばしたのか?

惡の華』最大の謎…仲村さんはなぜ春日くんを突き飛ばしたのか?

この理由が知りたくて春日くんは常磐さんと答え合わせの旅に出て仲村さんと対峙し砂浜でまさかのじゃれあいが行われたというのが、2日後に最新話掲載の別冊マガジン発売を控えた2014年3月7日現在の状況です。
このブログでも、なぜ仲村さんは春日くんを夏祭りの櫓の上で突き飛ばしたのかについていろいろ考えを書き連ねました。
『惡の華/押見修造』中学生編の仲村さんについて - I think so./I feel so.〜takashi_itoの読書感想文〜
このエントリで書いた「突き飛ばされた理由」はこんな感じです。

  • 巨大な惡の華を見てしまうほど自殺に酔いしれる春日くんを、本当は死にたくない仲村さんが拒絶した

これはこれとして、違う角度から迫れるような気がするので、今回は「仲村さんの性癖」という観点を提示したいと思います。

惡の華(7) (講談社コミックス)

惡の華(7) (講談社コミックス)


本題の前に

今回のエントリで「ドS」とか「ドM」とか出てきますが、首締められないとイケないとか吊るさないと我慢ならんとか、ハードコアなゴリゴリのではなく、カジュアルなものの言い方としての「ドS」「ドM」をイメージしていただけますと幸いです。


仲村さんは「ドS」

は?今更?という気がしないでもないのですが、改めて。。。
中学編の前半、特に1・2巻は仲村さんがドSであるということを楽しむコメディとして成立しています。
好きな女子の体操着を盗んだという弱みを春日くんは握られ、被ってる皮を全部剥がされるという契約を強要され、仲村さんに散々酷い目にあわされます。
仲村さんは春日くんを酷い目に合わせてその表情や態度をみてゾクゾクします*1。それだけではなく、「真実の変態」春日くんを使って町を焼き尽くす…これはもちろん放火するとかではなく、町を覆うクソムシどもの価値観を全部ひっくり返してやるということですが…という野望*2を持っています。
ざっくりまとめると、春日くんにしても町のクソムシどもにしても、困っておろおろしてしてる様子の中に立ち昇る人間の本性を見るとプルプルしちゃう、ということです。


春日くんはじゃあ「ドM」か?

というと、どうもそうとは言い切れないというのが私の考えです。確かにドS仲村さんに思わずついて行ってしまう*3、仲村さんの責めに毎回いい表情を返してしまうなど、磨けばそれなりに光るかもしれませんが、普通の人が上手な責めでリードされてるレベルだと思います。
でも仲村さんは春日くんに本当に才能があると誤認してしまい、そこで生じる温度差が突き飛ばしの要因になっていると考えます。


買い被られる春日くん

春日くんは仲村さんに買い被られているのです。自分の責めに毎回いい表情返してくるし変態だし、これはいいもん見つけた!という楽しさが仲村さんから伺えます。
「こいつなら」と向こう側へ一緒に行くことにしますが、山の事件で仲村さんは春日くんに裏切られます。
ここで一旦仲村さんは「やっぱダメだこいつ」と気付きましたが、町を焼き尽くす真実の変態としての可能性…それは春日くんがどうすれば仲村さんに喜んでもらえるかを考えてひねり出した、恋心ゆえの行動でしたが…にごまかされてしまい、「さすが私の見込んだ変態」と思い直してします。


巨大な敵に二人で立ち向かう限界

閉塞感の元凶は桐生の町そのものにあると考え、町の中に自分達なりの向こう川作りを企てる二人ですが、様々な妨害に頓挫し打ちのめされます。
この辺りの経緯は当ブログの下記エントリでご確認ください。
『惡の華/押見修造』で描かれる「町」の呪い - I think so./I feel so.〜takashi_itoの読書感想文〜
行き詰まった仲村さんは春日くんの皮を直接的に爪で引っ掻いて剥くことで変態を目覚めさせ、自分も新しく生まれ変わりたいと願うも叶わず。
仲村さんは絶望し、死を決意。しかしただ死ぬのではなく、夏祭りでその死に様を見せつけることにします。それが仲村さんのできる、町へ浴びせかけられる最後の冷や水と考えたからです。


そして仲村さんの性癖が開花する

櫓の上で肥大した惡の華を見つめ、愛する人と共に死ぬ喜びに涙を流す春日くん。
このタイミングで仲村さんの性癖が完全に開花します。
「私と死ぬことに喜びを感じているこの男に、一緒に死ぬことをおあずけにして私だけが死ぬところを見せつけたら、こいつは最高のいい顔をするに違いない…それが見れたら…!!!」
それこそが最高のエクスタシーと仲村さんは実行に移します。春日くんを突き飛ばし別れの挨拶をし、想像以上のいい顔をしていることを確認、更なる高みを目指して火をつけようとした瞬間…


お互いを分かっていなかった

愛する女と死ぬことにブヒブヒ言ってるのと、「サイコーでしょ?春日くん」という自分の性癖の押し付けと。結局二人とも、自分のことばかりで相手を見ていなかったというのが夏祭りの顛末です。
その後、春日くんは自分だけ置いてかれたことが消化できないまま虚ろな日々を重ね、仲村さんは「もういいや」と閉じこもり、いい子のフリして心を腐らせています。


バラバラの気持ちは回収できたのか?

そうして3年半後、銚子の砂浜で取っ組み合いが行われました。あの時それぞれが全く違う方向を見てしまった2匹のクソムシは、もう1匹のクソムシを交えて、違う方向を見ていたのはそれぞれが違うクソムシだったのだから当然の帰結であることをようやく理解し、お互いを夏祭りの櫓の上から解放しました。
それが

二度とくんなよ
ふつうにんげん

ありがとう

というセリフに表れています。


まとめ

ということで、今回はこないだコンビニで立ち読みした『喧嘩商売』改め『喧嘩稼業』の、石橋強の回想に着想を得て、春日くんの困った顔を見るとハァハァしてしまう仲村さんの性癖が櫓の突き飛ばしを引き起こした、という内容でまとめてみました。ありがとうございました。

*1:コミックス1巻P.103、コミックス2巻P.150、コミックス4巻P.157〜159

*2:コミックス1巻P.197

*3:コミックス2巻P.136〜137