I think so./I feel so.

漫画や映画など読んだもの・見たもの・聞いたもの・使ってみたものや普段の生活に関する感想文です。内容は一個人である私の思いつきに過ぎません。

『惡の華/押見修造』にみる、親と子の関係

惡の華』を深く読もうとした時、親子関係が結構重要ですよね、という話

※例によってネタバレ気味ですのでご注意ください。
週刊プレイボーイ2013年15号でのインタビューにおいて、作者・押見修造は次のように語っています。

僕の場合は、中1のときに父親からルドンの絵や萩原朔太郎の詩を教えられて、それまで知っていた世界がガラガラガラッと崩れてしまう”自意識ビッグバン”が起こったんです。

同じく週刊プレイボーイ2013年15号でのインタビューより。

秋葉原通り魔事件の犯人の話を引きつつ)彼は中学のとき、好きな女のコがいたそうなんですが、彼の母親が介入してきて、(略)引き離したそうなんです。僕も、中学の頃に少し付き合っていたその彼女と、同じように別れさせられた。そして、それに反抗できなかった自分にもジレンマを感じていた。

また、季刊エス2013年4月号でのインタビューにおいてもこう語っています。

家庭はちゃんと描きたいなと思っていて。思春期ものや少年マンガって、あまり家庭が出てこないけど、僕は思春期に親の存在がすごく大きくて、親によって世界を支配されているような感覚だったんです。だから、そこはちゃんと描かないと嘘になると思いました。初恋の子も、親の存在が全面に出ていたせいで、色々大変なことが起こったから。中学生の思春期を描くにあたって、家庭というのは大事だな、と思います。

これらのインタビューで明らかなように、押見は思春期をテーマとした漫画を描くにあたっては家庭の存在を重視している。このような制作態度の理由は押見自身の体験として次の2つがあったためである。

  1. 中1の時、ルドンの絵や萩原朔太郎の詩を父に教えられ世界が変わった、
  2. 中学の時に少しだけ付き立っていた女のコがいたが、親によって引き離された


作者の体験が反映される作品世界

実際『惡の華』においてはその姿勢のとおり、次のようなくだりがある。
コミックス2巻14Pより

(佐伯とはじめてのデート、古本屋にてボードレール惡の華』を手に取りながら)
春日「中1のときはじめて読んで 世界の色が全部変わった」

コミックス6巻30Pより

(深夜に仲村とのいつもの待ち合わせ場所に出かけようとして父親に見咎められ)
春日「僕に惡の華を読ませたのは…お父さんじゃないか!」

父親がもたらした体験によって世界が変わり、そこで培われた価値観が春日の行動原理に結びつきます。押見の語る「親によって世界が支配されている」ことを春日を通して表現しています。
これらは内面的な価値観の形成といった部分の話となりますが、もっと直接的な親の支配として描かれるのが、中学生編の一連の事件の後処理として、主要キャラクターの親が取る行動です。

  1. 春日は大宮に引越し
  2. 佐伯は宇都宮に引越し

何処に行ったかは分からないが、仲村も何処かに引越す予定であることがコミックス6巻105Pで春日の父親から語られます。このように親の理不尽な(?)力によりそれぞれが物理的に引き離されます。押見が中学時代の彼女と引き離されたように。


本質的に、子は親に逆らえない

惡の華』で押見が描いたとおり、自分で生活する力もない子供時代…一般的には思春期終わるくらいまでは、精神的にも物理的にも、あるいは経済的にも親の支配から子は免れません。様々な条件が重なり、巣立ってはじめてその支配から抜け出すことができます。思春期を越える、つまり自分の価値観を自分なりのモノの見方によって作り上げることで精神的に離れ、次に進学などで物理的に離れ、就職で経済的に離れるわけです。


しかし、別冊マガジン2013年5月号掲載の最新話で春日はついに!

最新話である別冊マガジン2013年5月号掲載第44話「罪深い僕の心が求めるのは」で、春日はついに父親がもたらした「ルドンの惡の華モチーフ」の世界からは抜け出し、自分の新しい価値観を作り上げた、あるいはそのきっかけを掴んだようです。この『惡の華』という物語の主題は「思春期を春日がどうくぐり抜けて成長するか」を描くことにあります*1。44話を読む限り、物語としては終わりが見えてきたのかなと私は思います。




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*1:週刊プレイボーイのインタビューで押見が「最終的には春日くんが思春期をくぐり抜けて成長する”青春マンガ”にしたいと思って描いています。」と答えている